偽りのない「波長」が、ビジネスの摩擦をゼロにする ―― タイの地で芽吹いた、数年前の種

グローバルビジネスの現場において、新規顧客との信頼構築には多大な時間とエネルギーを要する。だが、稀にそのプロセスを数光年単位でショートカットできる瞬間がある。

それは、かつて自分が蒔いた「誠実さ」という種が、予期せぬ場所で実を結んだ時だ。

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1. 2023年、ドイツでの再会

かつて私が仕えた、フランスを拠点としていた元CEO。2018年に退任した彼の評価は、社内では賛否両論あった。しかし私にとっては「実力のある人間を見抜き、相応の役割を与える」という、本質的な審美眼を持つ最高のボスだった。

退職後、故郷の英国へ戻った彼と、2023年のドイツの展示会で再会する機会があった。私は迷わず彼に歩み寄り、こう告げた。 「在職中に私に多くの機会を与えてくれたこと、心から感謝しています」

わざわざ面と向かって感謝を述べる人間は少なかったのだろう。彼は驚き、そして深く喜んでくれた。私はただ、異国に住む彼に、二度と会えないかもしれないという予感から、偽りのない気持ちを伝えたかっただけだった。

2. タイで起きた「信頼の移転」

それから数年後の先週火曜日、私はタイで新規顧客のオフィスを訪れていた。 初対面の緊張感が漂う中、相手から唐突に問いかけられた。 「君は、あの元CEOを知っているか?」

「私の尊敬するボスです」 私が即答した瞬間、部屋の空気が一変した。顧客は破顔し、そこからの対話は驚くほどの速度で核心へと進んでいった。

その顧客もまた、元CEOと深い信頼関係(あるいは波長)で結ばれた一人だったのだ。「彼が評価し、彼を尊敬している人間なら間違いない」という、目に見えない信頼の裏付けが、交渉という名の「消耗」を一瞬で消し去った。

3. 「波長」という名の最強の武器

これは単なる偶然ではない。私はこう考えている。 元CEOと顧客の波長が合っていた。そして、私と元CEOの波長も合っていた。ならば、私と顧客の波長もまた、高確率で共鳴する。

人脈を「計算」で作ろうとする人間は多い。だが、打算的なつながりは、相手の計算が変われば容易に切れる。 一方で、自分が本当に尊敬できる人との縁を大事にし、偽りのない気持ちで接する。そうして形づくられた「波長のネットワーク」は、時間を経て、国境を超えた場所で自分を助ける最強の装備となる。

結論:自分に偽りなく生きるという合理性

世界は広いようでいて、実は同じ波長を持つ者たちが引き寄せ合うようにできている。 打算を捨て、自分が信じる「縁」を大事にすること。一味違う非効率に見えるこの行為こそが、最後には自分の周りに最高のチームと機会を残す、最も合理的な生存戦略なのだ。


玄水


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