日本で働いていると、多くの人が同じ感覚に行き着きます。
努力しているのに、なぜか楽にならない。
真面目にやるほど、なぜか消耗していく。それは能力不足でも、根性の問題でもありません。
日本型の組織と働き方そのものが、**人を「消耗させながら維持される構造」**になっているからです。このシリーズでは、
日本型サラリーマンが無自覚に巻き込まれやすい「消耗戦」の正体を、
感情論や精神論ではなく、思考と構造の視点から解剖していきます。ここに書かれているのは、
頑張れば報われる話でも、前向きになれる処方箋でもありません。
この構造の中で、あなたはどこに立ち続けるのか。
その問いから、逃げないための連載です。
日本の長時間労働を語るとき、
今もなお、次のような説明が使われます。
「日本人は勤勉だから」
「努力を美徳とする文化だから」
しかし、本当にそれが原因でしょうか。
もし勤勉さそのものが問題なら、
ここまで多くの人が疲弊し、離職し、
心身を壊す社会は、とっくに持続不能になっているはずです。
私が現場で見てきた現実は、もっと単純で、もっと構造的でした。
日本で長時間労働がなくならない最大の理由は、
仕事が“終わるように設計されていない”こと。
今回は、日本型組織に深く埋め込まれた
「終わらない仕事」の正体を、設計の視点から分解します。
「仕事が終わらない」3つの設計ミス
なぜ多くの日本型サラリーマンは、
「今日はここまで」と区切って帰れないのか。
そこには、ほぼ共通する3つの構造的欠陥があります。
ゴールが曖昧になる「全員野球」という罠
本来、プロの仕事には、
どこまでやれば完了なのか
誰が最終責任を負うのか
が明確に定義されているべきです。
この境界線があって初めて、
効率や質の改善が可能になります。
しかし日本型組織では、
「全員野球」という一見美しい言葉によって、
この境界線が意図的に曖昧にされます。
実際の野球を考えれば明らかです。
守備位置は明確
打席に立てるのは一人
全員が同じ場所に集まれば、試合は成立しません。
役割を曖昧にした「全員野球」は、
協力ではなく、責任の無限拡張を生みます。
誰の仕事でもあり、誰の仕事でもない。
この状態こそが、仕事が終わらなくなる第一の原因です。
優先順位が崩れる「朝令暮改」というリズム破壊
仕事の多くは、本来ある程度ルーティン化できます。
優先順位が頻繁に入れ替わる環境は、例外であるべきです。
しかし日本型組織では、
朝礼で突然振られる仕事
「先にこれをお願い」という割り込み
昨日まで重要だった業務が、今日は後回し
こうした変更が日常的に発生します。
問題は、
これが単なる業務調整ではなく、
集中力とリズムを破壊する行為である点です。
予定外の仕事は、想像以上にエネルギーを消費します。
この小さな消耗が積み重なり、
「気づけば今日も残業」
という状態が常態化していきます。
効率化すると仕事が増える「逆インセンティブ」
最も歪んでいるのが、この構造です。
仕事を効率よく終わらせた人ほど、
次の仕事を追加される。
「もう少し質を上げて」
「時間あるなら、これもお願い」
こうして、終わりかけた仕事は再び未完に戻されます。
しかも追加される仕事ほど、
完成基準が曖昧
空気を読みながら進める必要がある
という厄介な性質を持っています。
結果として、
優秀で
真面目で
察しの良い人ほど
静かに消耗し、やがて現場を去っていく。
私はこの光景を、何度も見てきました。
外資系が「残業」を前提にしない理由
外資系企業、とくに欧州系では、
そもそも「残業」が前提になっていません。
職務内容は契約で明確
勤務時間も明確
本社レベルで残業を制限・禁止している企業も多い
彼らが重視するのは、
時間ではなく成果が出たかどうかです。
一方、日本型組織では、
「まだできるよね?」
「みんな残ってるよ?」
という曖昧な圧力が支配します。
こうして定時退社は、
いつの間にか
「協調性がない」「やる気が足りない」
という評価にすり替えられていく。
残業は選択ではなく、空気によって強制される行動になります。
「残業代で稼ぐ」制度が生む歪み
もう一つ見逃せないのが、給与設計です。
日本では、
基本給を抑え
残業代を前提に生活設計を組ませる
企業が少なくありません。
その結果、
早く終わらせても得をしない
むしろ長く会社にいた方が収入が増える
という、逆インセンティブが生まれます。
これは個人のモラルの問題ではありません。
効率よく成果を出した人が、
早く帰れて、正当に評価される。
この当たり前の設計が欠けていることこそが、
長時間労働を温存させているのです。
結論:長時間労働は「文化」ではなく「設計ミス」
長時間労働は、
もはや意識改革や根性論で解決できる問題ではありません。
ゴールを明確にする
役割と責任を定義する
成果に対して正当に報いる
この基本設計がなされない限り、
日本型サラリーマンの消耗戦は終わりません。
問題は、あなたの努力不足ではない。
仕組みそのものが、人を削る形で作られている。
次回予告
なぜ「責任の所在」が曖昧な組織ほど、
人を静かに壊していくのか。
責任と権限のねじれ構造を、さらに掘り下げます。
玄水
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