時代とともに多様化するビジネスパーソンの価値観。その中で「出世」という言葉の響きも変わりつつありますが、それでもなお、多くの人がこのゲームの勝者を目指しています。
そもそも出世とは何か。綺麗な言葉を剥ぎ取れば、それは**「肩書、社内のポジション、給料、そして特権(専用車、ビジネスクラス利用、秘書の配置など)といった、より大きな権力と金銭的報酬を得ること」**に他なりません。
私はこれまで30年以上にわたり、日系・外資系企業の両方でキャリアを積んできました。本記事は「こうすれば出世できる」という薄っぺらい成功法則を説くものでも、むやみに出世を推奨するものでもありません。
会社という組織の中で、「出世とはどのような力学で動いているのか」というビジネスのリアルな一面を、一つの事実として書き残しておきたいと思います。
なぜ「あいつ」が上がり、頑張っている自分が上がれないのか
「私はあの人よりずっと真面目に頑張っているのに、なぜあの人が出世するのか?」
居酒屋の愚痴で最もよく聞かれるフレーズです。確かに、若手の頃の低いポジションであれば「個人の頑張り」や「純粋な能力」が評価に直結することもあります。しかし、ポジションが上になればなるほど、会社は「本人が頑張っているかどうか」などという基準で人を引き上げることはありません。
アメリカのギャラップ社などの調査でも「社員の成長やエンゲージメントの7割は直属の上司で決まる」というデータがありますが、出世に関しても、直属の上司、あるいはその上の経営陣の影響がすべてと言っても過言ではありません。
極論を言えば、出世するか否かは**「会社(あるいはオーナー)が、その人を上のポジションに『置きたい』と思うかどうか」**、ただそれだけです。
では、その「置きたい」という判断基準は何か。それは純粋な業務遂行能力よりも、組織への忠誠心、将来の莫大な売上貢献への期待値、あるいは「自分(引き上げる側)の派閥の力になるか」といった、極めて生々しく、政治的な理由で決まることが多いのが現実です。
「出世というゲーム」のリアルな歩き方・4箇条
もしあなたが、自身の目的のためにどうしても出世というカードが必要なのであれば、以下の4つの現実を直視し、戦略的に動く必要があります。
1. 「出世=絶対正義」の呪縛から降りる
まず、自分は本当に「出世」が欲しいのかを明確にしてください。目的を達成するための手段として上のポジションが必要なら、それを取りに行くのは合理的です。 しかし、「同期が上がったから」「世間体があるから」と、むやみに出世を「絶対的な正義」だと思い込んで目指すと、深い落とし穴にハマります。 上にいけば当然、責任とプレッシャーは跳ね上がります。自分の器(キャパシティ)以上のポジションに就くことは、会社にとってマイナスなだけでなく、自分自身の心身を壊す(適応障害など)最悪の結果を招きます。「出世しない」という選択もまた、立派な生存戦略なのです。
2. 孤独な努力を捨て、「引き上げる力」を見極める
自分の力だけで出世できるという幻想は捨ててください。直属の上司、さらに上の役員、オーナーなど、キーマンの中で「自分を評価し、好意を示してくれる人(スポンサー)」を見極める眼力が必須です。 見つけたら、その人の役に立つ行動をします。その結果、相手から継続的に「プラスのフィードバック」があれば、その人を徹底的に大事にし、ついていきます。逆に、いくら役に立つことをしても反応が薄い場合は、冷徹にそのルートを損切りし、別のアプローチを探るべきです。
3. チャンスには「完璧な遂行」と「上への還元」で応える
上司やスポンサーからチャンス(重要な仕事)を与えられたら、死に物狂いで完璧にこなします。そして重要な節点での「報・連・相」を欠かさず、完了後には速やかに報告する。 最も重要なのは、その仕事によって自分が会社から評価(ご褒美)を得た場合、必ずチャンスをくれた上司に感謝を伝えることです。「あなたのおかげです」という上司へのプラスのフィードバックが、次のより大きなチャンスを呼び込み、上昇の螺旋を描き始めます。
4. 「運と縁」を受け入れ、腐らずに淡々とこなす
自分を引っ張り上げてくれるスポンサーや、絶好のチャンスというのは、欲しければ手に入るものではありません。そこには必ず「運と縁とタイミング」が絡みます。 巡ってきたら最大限に活かす。しかし、巡ってこなくても不平不満を言わず、自分の分内の仕事をプロとして淡々とこなす。この精神的な成熟が必要です。大多数のビジネスパーソンにとって、人生を変えるようなチャンスは数回しかないか、あるいは全く訪れないのが普通なのです。
結び|「出世しない」を選ぶ人こそ、構造を知るべき
近年、ワークライフバランスや自分らしい生き方を重視し、あえて「出世願望を持たない」ビジネスパーソンが増えています。それ自体は非常に健全な変化だと私は思います。
しかし、だからといって「出世のメカニズムなんて自分には関係ない」と目を背けるのは危険です。
自分がゲームに参加しなくても、会社というフィールドにいる以上、周りの人間がどのような思惑で動き、誰が誰を引き上げようとしているのかを把握しておくことは、自分自身を理不尽で不利な状況に追い込まないための「盾」になります。
出世は、個人の能力と外部要素(他者の思惑)が複雑に絡み合う現象です。 この生々しい構造を理解した上で、あなたは自らのキャリアのハンドルをどちらへ切るのか。静かに見つめ直すきっかけになれば幸いです。
玄水
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