【外資22年でたどり着いた「静かな生存戦略」(10)】 外資系企業の「豪華チームビルディング」が茶番である理由。リゾートの狂騒と現場の後ろめたさ

外資系企業に身を置いていると、驚くほど頻繁に「チームビルディング」という言葉を耳にする。

国内の高級旅館、APAC(アジア太平洋)地域のハブ、あるいはグローバルの旗艦都市。私はこれまで、選ばれたキーパーソンの一人として、ドバイの高級ビーチホテルに泊まり、スコットランドで民族衣装に身を包み、南国のリゾートで夜通しグラスを傾ける──そうしたきらびやかなイベントに何度も参加してきた。

20代や30代の頃は、それを「自分は会社から評価されている」という成功の証として無邪気に受け止めていた。

しかし、外資サバイバル歴22年を超えた今、私はこの手の活動に対して極めて冷めた距離を取っている。理由は単純だ。SNSにアップされる華やかな集合写真の中には、外資系企業の「過酷な現場の現実」が決して写らないからである。

今回は、組織強化という美名の下に行われるチームビルディングの構造的欺瞞(ぎまん)と、私がそこから降りた理由について語ろう。

目次

1. 慰安旅行の「隠れ蓑」としてのチームビルディング

なぜ外資系企業は、これほどまでに莫大な予算を投じてチームビルディングを繰り返すのか。私はそこに、二つの構造的な理由があると考えている。

一つは、人事部門(HR)にとっての「エンゲージメント向上施策をやりました」という活動実績(KPI)作りの側面。 もう一つは、トップマネジメントが特定のキーパーソンに対して、一年の貢献を労うための「報奨装置」としての側面だ。

日本企業的に言えば、要するに**「豪華な慰安旅行」や「経費での大宴会」**に過ぎない。 それ自体を頭ごなしに悪だと裁くつもりはない。しかし、実態は単なる選別された人間へのインセンティブであるにもかかわらず、それを「チームの結束」や「ビジョンの共有」といった意識の高い言葉で正当化する茶番劇には、強い違和感を覚える。

2. コストカットに喘ぐ現場との「残酷な乖離」

近年、私がこうしたイベントにどうしても積極的になれない最大の理由は、圧倒的な「現場との乖離(かいり)」だ。

終わりの見えないインフレの中、現場では「出張費を削れ」「交際費を落とせ」と厳しいコスト削減が叫ばれ、給与も上がらず静かに疲弊していく同僚たちがいる。 その一方で、一部の人間だけが、現場が絞り出したはずの利益(原資)を使って、贅沢なリゾートでシャンパンを開けている。

そこには、ビジネスパーソンとしてどうしても拭えない強烈な「後ろめたさ」が存在する。 帰国して日常業務に戻った後も、その感覚は消えるどころか、むしろ心の澱(おり)として静かに積もっていく。現場の痛みを引き受けてまで、その狂騒に参加する価値が果たしてあるのか。私は次第に、そう自問するようになった。

3. 外資の流動性の前では、リゾートの「絆」は儚すぎる

「チームの結束を高める」という大義名分についても、私は極めて懐疑的だ。

皮肉な現実を言おう。 十年前、南国のリゾートで肩を組み、満面の笑みで写真に収まった「最高のチーム」の同僚たちの多くは、すでにこの会社にはいない。

外資系という流動性の高い、ドライな雇用環境において、数日間の非日常的な高揚感で築かれた関係など、驚くほど脆(もろ)いのだ。 リゾートでの作られた一体感が、日々の厳しい売上目標や、理不尽な本社の要求を共に乗り越えるための「持続的な信頼」に繋がった試しは、私の22年の経験において一度もない。

4. 「会社への忠誠」を試される、同調圧力という踏み絵

イベントの開催地は、誰もが憧れる素晴らしい場所ばかりだ。 しかし、その空間に一歩足を踏み入れれば、「会社が用意したプログラムへの完全な賛同と熱狂」が暗黙のうちに求められる。

たとえその内容に違和感や馬鹿馬鹿しさを覚えても、選ばれたエリートとして「最高に楽しそうに」振る舞わなければならない。少しでも冷めた態度をとれば「協調性がない」「カルチャーフィットしていない」というレッテルを貼られる。

それは、現代のビジネスにおける**一種の「踏み絵(同調圧力)」**である。私にとってそこは、最も自由を感じられない息苦しい時間なのだ。

結び:真のチームは、波音の鳴るビーチでは生まれない

私は、チームで働くことそのものを否定するつもりはない。 しかし、それが現場の犠牲の上に成り立つ特権的な贅沢であったり、形骸化した熱狂の儀式であったりするならば、私はそこに1ミリの価値も見出さない。

真のチームとは、どこで生まれるのか。 それは、日々の泥臭い業務、トラブルという苦境での相互支援、そして互いの「プロフェッショナリズム」への静かな敬意の中でしか育まれない。

南国のリゾートの波音にかき消されるような薄っぺらい結束よりも、私は現場の修羅場で積み上げられる、無言の信頼を選びたい。


玄水


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