日本のビジネスパーソンは、給与明細から天引きされる税金や社会保険料には敏感だが、それが将来どう戻ってくるかという「出口」の管理には驚くほど無頓着だ。
特に転職を経験している層にとって、極めて危険な死角が存在する。 それが、視界と記憶から消え去った「企業年金」の存在である。
今回は、私自身の実地検証に基づき、あなたの見えない資産を確実に回収するためのプロセスを解説する。
年金の「第3階部分」は自動ではついてこない
日本のサラリーマンの年金制度は、基本的に階層構造になっている。
- 国民年金(基礎年金): 全員が加入する1階部分。
- 厚生年金: 会社員が加入する2階部分。
- 企業年金(厚生年金基金など): 会社が独自に設ける3階部分。
転職をする際、国民年金と厚生年金の手続きは、新しい会社の人事部が手配し、基礎年金番号に紐づいて自動的に継続される。問題は、3階部分の「企業年金」だ。
前職の企業に厚生年金基金などが存在した場合、その資産は新しい会社へ自動的に移管されるわけではない。多くの場合、以下の2つのパターンのいずれかで「放置」されている。
- パターンA: 以前勤めていた会社の年金基金が現在も存続しており、そこで資産が管理され続けている。
- パターンB: 基金の解散や転職に伴い、資産が「企業年金連合会」などへ移管されている。
これらは、自分からアクションを起こさない限り、誰も「あなたに受給権がありますよ」とは教えてくれない。
私の実地データ:2回の転職と2つの年金
私自身、これまでに2回の転職を経験している。 定年後のキャリアと資産の棚卸しを行う中で、過去の企業年金について調査を実施したところ、まさに上記の2パターンが混在していることが判明した。
1社目の企業年金は、現在もその会社の年金基金が存在しており、そこで私の資産が管理されていた。 もう1社の企業年金は、退職に伴い「企業年金連合会」へと資産が移管されていた。
合計金額は、加入期間や当時の給与水準によって人それぞれ異なる。しかし、たとえ将来受け取れる額が年間数万円であったとしても、それは労働の対価として積み上げた「自分自身の確定資産」である。
投資において不確実なリターンを追い求める前に、まずはこの「100%回収可能な無リスク資産」を確保するのが、合理的かつ冷徹なマネー戦略の鉄則だ。
あなたの「見えない資産」を回収する2つのステップ
もしあなたが過去に転職をしており、前職に企業年金制度があった記憶があるなら、直ちに以下のステップを実行してほしい。
ステップ1:過去の「加入員証」を発掘し、現状を確認する
まずは、過去の書類の山から「厚生年金基金加入員証」や、それに類する証書を探し出してほしい。 証書が見つかり、その基金が現在も存続している場合は、直ちにその基金の事務局へ連絡を取るべきだ。
特に重要なのは「住所・連絡先のアップデート」である。 引っ越しを繰り返していると、受給年齢に達した際のお知らせが届かず、最悪の場合、受給権を失効するリスク(時効)すらある。現状の登録情報を確認し、最新のものに更新しておくこと。
ステップ2:「企業年金連合会」のシステムで検索する
証書が見つからない、あるいは基金がすでに解散している場合は、資産が「企業年金連合会」に移管されている可能性が高い。
企業年金連合会の公式ホームページには、自分の基礎年金番号や生年月日などの情報を入力することで、移管された年金記録の有無を確認できる検索システムが用意されている。
記憶が曖昧でも構わない。まずはサイトにアクセスし、自身のデータを入力して「消えた年金」が存在しないか、徹底的にスクリーニングをかけるべきである。
結び:誰もあなたの資産を守ってはくれない
「国や会社が適切に管理してくれているだろう」という性善説は、あなたの資産を毀損する最大の要因となる。
見えない資産は、存在しないのと同じだ。 自らの権利を自らの手で調べ、主張し、回収する。これこそが、国や組織に依存しない「静かな生存戦略」の第一歩である。
今週末の20時間を副業に投じる前に、まずは1時間だけ、自身の過去の年金記録と向き合う時間を確保してみてはいかがだろうか。
玄水
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